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円×撫子。
* * *
雨に降られてしまった。
とはいえ、ショーは見ることが出来たし、屋外のアトラクションには大方乗り終わった後。
元々天気が良い日ではなかったし、ここまでもっただけでも御の字だと思う。
レインコートを買うという手もあったけれど、この季節雨に濡れるのは少々堪える。
そんなわけで、私たちは、屋内にあるアトラクションに足を向けた。
「……流石にこれは、あまり面白くないかしら」
「いーんじゃないですか。何も乗らないよりは楽しいでしょ」
そう言いながら並んだのは、いわゆるコーヒーカップのようなアトラクションだった。
屋内のこのエリアにあるのは、割と子供向けのアトラクションが多い。
絶叫マシンが特に好きなわけではないし、むしろ苦手なくらいだけれど、これは流石に少し物足りない。
コーヒーカップならばハンドルで調節ができるかと思ったのだけれども。
「回らないのね、あのハンドル」
「そうみたいですね」
遠心力を利用して回転する、と言われてもいまいちピンと来ないけれど、とにかくハンドルは回らないらしい。
「なお、速い回転をご希望のお客様は、お連れ様と近づいてお座り下さい」
「……ですって」
「……へえ。じゃあ、折角ですし並んで座りましょうか」
相変わらず、私にはいまいちピンと来ていなかった。
けれど多分、このとき私は、気づくべきだったのだと思う。
そう言った円の声が、妙に弾んでいたことに。
そして、アトラクションの扉が開き、私たちは近場の小さなカップに乗り込んだ。
けれど。
「ちょっと、……円、近くない?」
「近くありません。さっきあの人言ってたでしょ、回転を速くしたければくっついて座れって」
確かに近づいて、とは言ったけれど、何も、くっついて、とまでは言っていない。
それにしては、円の位置が近すぎる。
本当に円は、“くっついて”座っていた。
思わず抗議しようとしたけれど、そんな私を他所に、アトラクションが動き出した。
「っ、え、ええっ?」
速い。
思ったより全然速い。
確かにハンドルは回らないけれど、思い切り身体を持っていかれる。
そして何より。
「円、近い!!」
「近くありません」
「近いわよ!!」
半ば叫ぶようにしてそう言った。
近い。
すごく近い。
いくらなんでも密着しすぎだ。
「へえ、これ結構面白いですね」
「のんきなこと言ってないで、離れて!!」
「嫌ですよ、離れたら回転止まっちゃうじゃないですか」
大体、乗り物が動いてる間に立ち上がったら危ないでしょ。
しれっと円はそんなことを言うけれど、明らかにそんなことを思っていないのは見え見えだ。
単に、離れる気がないだけ。
いい加減私でもわかる。
円はどう見てもこの状況を楽しんでいた。
「円!!」
離れて、という意味で名前を呼んだのに、円は更に身体を寄せてくる。
回転は益々速くなり、もはやコーヒーカップのハンドルを全力で回しているのと同じ状態だ。
このアトラクションは、こんなに激しい乗り物だっただろうか?
どう見てもそうは見えなかったというのに!!
周囲はもはや糸状にしか見えないし、三半規管が明らかにおかしい。
おまけに隣の円は益々面白がっているようで、全力で私に体重をかけてくる。
おかげで触れた身体から伝わってくる円の熱にも、私は激しく動揺させられていた。
いくら円がスキンシップの多い方だとはいえ、ここまで密着することは流石に滅多にない。
結局、アトラクションが動いている1分半、私は、身も心も、思い切り振り回される羽目に陥っていた。
「撫子さん、足元ふらついてますよ?」
「……誰のせいよ」
「さて、誰のせいだか」
しれっとそんなことを言う円は、悔しい程涼しい顔だ。
「子供向けかと思いましたけど、案外そうでもなかったですね。面白かったです」
「私は全然面白くなかったわよっ」
「そうですか?撫子さん結構楽しんでるように見えましたけど」
「一体どこを見てそんなことを言ってるのよ!!」
「だって撫子さん、ドキドキしたでしょ?……ぼくに」
「っ……!!」
す、と顔を覗き込まれて、私は絶句するしかなかった。
そりゃあ、ドキドキさせられた。
嫌と言うほど。
あんなにくっつかれれば、当たり前だ。
触れていた熱が蘇って、頬が熱くなる。
「顔、真っ赤ですよ、撫子さん」
「う、煩いわよ、円!!」
「ねえ撫子さん。ぼく、これもう一回、乗ってもいいですけど?」
にやり、と円が笑う。
「……私は、絶対ごめんだわ!!」
条件反射で怒鳴り返すと、円が珍しく、声を立てて笑った。
その顔が本当に楽しそうで、悔しいけれど、私は思わず毒気を抜かれてしまっていた。
……ちなみに、アトラクション自体は私にも結構面白かったのだけれど、そのことは、内緒にしておこうと思う。
どうせまた、思い切りからかわれるに違いないのだから。
Fin.
* * *
TDSの某アトラクションは本当にリア充向けだと思いました。
雨に降られてしまった。
とはいえ、ショーは見ることが出来たし、屋外のアトラクションには大方乗り終わった後。
元々天気が良い日ではなかったし、ここまでもっただけでも御の字だと思う。
レインコートを買うという手もあったけれど、この季節雨に濡れるのは少々堪える。
そんなわけで、私たちは、屋内にあるアトラクションに足を向けた。
「……流石にこれは、あまり面白くないかしら」
「いーんじゃないですか。何も乗らないよりは楽しいでしょ」
そう言いながら並んだのは、いわゆるコーヒーカップのようなアトラクションだった。
屋内のこのエリアにあるのは、割と子供向けのアトラクションが多い。
絶叫マシンが特に好きなわけではないし、むしろ苦手なくらいだけれど、これは流石に少し物足りない。
コーヒーカップならばハンドルで調節ができるかと思ったのだけれども。
「回らないのね、あのハンドル」
「そうみたいですね」
遠心力を利用して回転する、と言われてもいまいちピンと来ないけれど、とにかくハンドルは回らないらしい。
「なお、速い回転をご希望のお客様は、お連れ様と近づいてお座り下さい」
「……ですって」
「……へえ。じゃあ、折角ですし並んで座りましょうか」
相変わらず、私にはいまいちピンと来ていなかった。
けれど多分、このとき私は、気づくべきだったのだと思う。
そう言った円の声が、妙に弾んでいたことに。
そして、アトラクションの扉が開き、私たちは近場の小さなカップに乗り込んだ。
けれど。
「ちょっと、……円、近くない?」
「近くありません。さっきあの人言ってたでしょ、回転を速くしたければくっついて座れって」
確かに近づいて、とは言ったけれど、何も、くっついて、とまでは言っていない。
それにしては、円の位置が近すぎる。
本当に円は、“くっついて”座っていた。
思わず抗議しようとしたけれど、そんな私を他所に、アトラクションが動き出した。
「っ、え、ええっ?」
速い。
思ったより全然速い。
確かにハンドルは回らないけれど、思い切り身体を持っていかれる。
そして何より。
「円、近い!!」
「近くありません」
「近いわよ!!」
半ば叫ぶようにしてそう言った。
近い。
すごく近い。
いくらなんでも密着しすぎだ。
「へえ、これ結構面白いですね」
「のんきなこと言ってないで、離れて!!」
「嫌ですよ、離れたら回転止まっちゃうじゃないですか」
大体、乗り物が動いてる間に立ち上がったら危ないでしょ。
しれっと円はそんなことを言うけれど、明らかにそんなことを思っていないのは見え見えだ。
単に、離れる気がないだけ。
いい加減私でもわかる。
円はどう見てもこの状況を楽しんでいた。
「円!!」
離れて、という意味で名前を呼んだのに、円は更に身体を寄せてくる。
回転は益々速くなり、もはやコーヒーカップのハンドルを全力で回しているのと同じ状態だ。
このアトラクションは、こんなに激しい乗り物だっただろうか?
どう見てもそうは見えなかったというのに!!
周囲はもはや糸状にしか見えないし、三半規管が明らかにおかしい。
おまけに隣の円は益々面白がっているようで、全力で私に体重をかけてくる。
おかげで触れた身体から伝わってくる円の熱にも、私は激しく動揺させられていた。
いくら円がスキンシップの多い方だとはいえ、ここまで密着することは流石に滅多にない。
結局、アトラクションが動いている1分半、私は、身も心も、思い切り振り回される羽目に陥っていた。
「撫子さん、足元ふらついてますよ?」
「……誰のせいよ」
「さて、誰のせいだか」
しれっとそんなことを言う円は、悔しい程涼しい顔だ。
「子供向けかと思いましたけど、案外そうでもなかったですね。面白かったです」
「私は全然面白くなかったわよっ」
「そうですか?撫子さん結構楽しんでるように見えましたけど」
「一体どこを見てそんなことを言ってるのよ!!」
「だって撫子さん、ドキドキしたでしょ?……ぼくに」
「っ……!!」
す、と顔を覗き込まれて、私は絶句するしかなかった。
そりゃあ、ドキドキさせられた。
嫌と言うほど。
あんなにくっつかれれば、当たり前だ。
触れていた熱が蘇って、頬が熱くなる。
「顔、真っ赤ですよ、撫子さん」
「う、煩いわよ、円!!」
「ねえ撫子さん。ぼく、これもう一回、乗ってもいいですけど?」
にやり、と円が笑う。
「……私は、絶対ごめんだわ!!」
条件反射で怒鳴り返すと、円が珍しく、声を立てて笑った。
その顔が本当に楽しそうで、悔しいけれど、私は思わず毒気を抜かれてしまっていた。
……ちなみに、アトラクション自体は私にも結構面白かったのだけれど、そのことは、内緒にしておこうと思う。
どうせまた、思い切りからかわれるに違いないのだから。
Fin.
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TDSの某アトラクションは本当にリア充向けだと思いました。
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雨に降られてしまった。
とはいえ、ショーは見ることが出来たし、屋外のアトラクションには大方乗り終わった後。
元々天気が良い日ではなかったし、ここまでもっただけでも御の字だと思う。
レインコートを買うという手もあったけれど、この季節雨に濡れるのは少々堪える。
そんなわけで、私たちは、屋内にあるアトラクションに足を向けた。
「……流石にこれは、あまり面白くないかしら」
「いーんじゃないですか。何も乗らないよりは楽しいでしょ」
そう言いながら並んだのは、いわゆるコーヒーカップのようなアトラクションだった。
屋内のこのエリアにあるのは、割と子供向けのアトラクションが多い。
絶叫マシンが特に好きなわけではないし、むしろ苦手なくらいだけれど、これは流石に少し物足りない。
コーヒーカップならばハンドルで調節ができるかと思ったのだけれども。
「回らないのね、あのハンドル」
「そうみたいですね」
遠心力を利用して回転する、と言われてもいまいちピンと来ないけれど、とにかくハンドルは回らないらしい。
「なお、速い回転をご希望のお客様は、お連れ様と近づいてお座り下さい」
「……ですって」
「……へえ。じゃあ、折角ですし並んで座りましょうか」
相変わらず、私にはいまいちピンと来ていなかった。
けれど多分、このとき私は、気づくべきだったのだと思う。
そう言った円の声が、妙に弾んでいたことに。
そして、アトラクションの扉が開き、私たちは近場の小さなカップに乗り込んだ。
けれど。
「ちょっと、……円、近くない?」
「近くありません。さっきあの人言ってたでしょ、回転を速くしたければくっついて座れって」
確かに近づいて、とは言ったけれど、何も、くっついて、とまでは言っていない。
それにしては、円の位置が近すぎる。
本当に円は、“くっついて”座っていた。
思わず抗議しようとしたけれど、そんな私を他所に、アトラクションが動き出した。
「っ、え、ええっ?」
速い。
思ったより全然速い。
確かにハンドルは回らないけれど、思い切り身体を持っていかれる。
そして何より。
「円、近い!!」
「近くありません」
「近いわよ!!」
半ば叫ぶようにしてそう言った。
近い。
すごく近い。
いくらなんでも密着しすぎだ。
「へえ、これ結構面白いですね」
「のんきなこと言ってないで、離れて!!」
「嫌ですよ、離れたら回転止まっちゃうじゃないですか」
大体、乗り物が動いてる間に立ち上がったら危ないでしょ。
しれっと円はそんなことを言うけれど、明らかにそんなことを思っていないのは見え見えだ。
単に、離れる気がないだけ。
いい加減私でもわかる。
円はどう見てもこの状況を楽しんでいた。
「円!!」
離れて、という意味で名前を呼んだのに、円は更に身体を寄せてくる。
回転は益々速くなり、もはやコーヒーカップのハンドルを全力で回しているのと同じ状態だ。
このアトラクションは、こんなに激しい乗り物だっただろうか?
どう見てもそうは見えなかったというのに!!
周囲はもはや糸状にしか見えないし、三半規管が明らかにおかしい。
おまけに隣の円は益々面白がっているようで、全力で私に体重をかけてくる。
おかげで触れた身体から伝わってくる円の熱にも、私は激しく動揺させられていた。
いくら円がスキンシップの多い方だとはいえ、ここまで密着することは流石に滅多にない。
結局、アトラクションが動いている1分半、私は、身も心も、思い切り振り回される羽目に陥っていた。
「撫子さん、足元ふらついてますよ?」
「……誰のせいよ」
「さて、誰のせいだか」
しれっとそんなことを言う円は、悔しい程涼しい顔だ。
「子供向けかと思いましたけど、案外そうでもなかったですね。面白かったです」
「私は全然面白くなかったわよっ」
「そうですか?撫子さん結構楽しんでるように見えましたけど」
「一体どこを見てそんなことを言ってるのよ!!」
「だって撫子さん、ドキドキしたでしょ?……ぼくに」
「っ……!!」
す、と顔を覗き込まれて、私は絶句するしかなかった。
そりゃあ、ドキドキさせられた。
嫌と言うほど。
あんなにくっつかれれば、当たり前だ。
触れていた熱が蘇って、頬が熱くなる。
「顔、真っ赤ですよ、撫子さん」
「う、煩いわよ、円!!」
「ねえ撫子さん。ぼく、これもう一回、乗ってもいいですけど?」
にやり、と円が笑う。
「……私は、絶対ごめんだわ!!」
条件反射で怒鳴り返すと、円が珍しく、声を立てて笑った。
その顔が本当に楽しそうで、悔しいけれど、私は思わず毒気を抜かれてしまっていた。
……ちなみに、アトラクション自体は私にも結構面白かったのだけれど、そのことは、内緒にしておこうと思う。
どうせまた、思い切りからかわれるに違いないのだから。
Fin.
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