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CLOCK ZERO portable発売記念カウントダウン企画『よあけ』提出作品その1。
レイ撫。
* * *

ひんやりと、冷たい感触。
……気持ちがいい。
ぼんやりと目を開けると、見知った顔が目に入った。

「ああ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか。」
「……レイン……?」
「はい。こんばんは。」

どうしてこんな時間にこんなところにいるのかとか。
不法侵入だとか。
言いたいことは色々あった。
色々あるはずだった。
けれど、私の口から零れ出たのは全然違う言葉。

「髪……長いのね」
「ああ、これですか?もう随分伸ばしちゃってますからねー」

目の前に居るレインは、いつも結っている髪を下ろしていた。
レインの細い指が揺らす、淡い金色と、柔らかなピンク。
綺麗だと思った。

「結構大変なんですよー、あの髪型結うの」

ふんわり、レインが笑った。
どうしてだろう。
今日のレインは別人のように見える。
髪を下ろしているから?
違う、それだけじゃない。
纏う雰囲気が、まるで違う人。

「……レイン」
「はい」
「どうして、ここに来たの?」
「そうですね……、あなたを、攫ってしまおうかと思いまして」

レインの手が、また頬に触れた。
冷たい指先。
まるで人形のような。

「鷹斗が、……怒るわ」
「はい。そうでしょうね」
「……それでも、私を攫うの?」
「はい、そのつもりでした」

レインが何を考えているか、わからない。
元々何を考えているかなんてわからない人だけど。それでも。

「あなたが寝ている間にね。あなたを攫ってしまおうと思っていたんです。……でも、あなたが起きてしまったので、計画は中止です」

あなたにもばれてしまっては意味がないですから、とレインが続けた。
優しい、けれど、どこか寂しい笑顔。

「レイン」
「なんです?」
「私を攫って、どうするつもりだったの」
「……そうですねー。……あなたには、自由になってほしかったですね」
「え?」

意外な台詞。
自由。
この場でこんなことを言われるなんて、思わなかった。
少しも。

「ねえ、撫子君」
「何……?」
「鷹斗君を救えるのは、あなただけです。……この状況は決してあなたが悪いわけではないけれど、このずれた歯車を元に戻すことができるのは、間違いなく、あなただけです」
「……」
「でもね。……だからこそ、あなたをここから、連れ去ってしまいたかった」

この壊れた世界をいつまでも、壊しておくために。
かみ締めるように続けられたその言葉が、痛い、そして、怖い。
レインは、この壊れた世界に、一体何を求めているのだろう。
私にはそれが、わからないままだった。

「あなたなら、必ず鷹斗君を救ってくれる。ボクはずっと、それを……、信じているんですよ」
「……」
「……それでは、おやすみなさい、撫子くん」

もう一度私の髪をなでると、レインが踵を返した。
行ってしまう。
そう思った瞬間、どうしてだろう、私は反射的に、レインの服を握り締めていた。

「撫子君?」
「……」
「どうしたんですか」
「……」
「撫子君?」
「……どこへも、行ったら駄目よ」

どうしてそんな言葉が出てきたのかわからない。
けれど、今手を離したら、この人はどこかに行ってしまう。
それは確信だった。
私が今何もせず、この手を放してしまったら。
きっと、レインは消えてしまう。

「どこか、って……。行くところなんて、どこにもないですよ?」
「それでもよ。……だから、今夜はこの部屋から出ないで。……私の傍に居て」
「!……撫子君、そういう台詞を言う相手はきちんと考えたほうがいいと思いますけど」
「いいの。……いいから、朝まで、あなたはここに居て。絶対に、ここに居て。……私が起きたときあなたが居なかったら、私、本気で怒るわ」
「……撫子君に怒られるのは、ちょっと、……いえ、かなり嫌ですね」
「それなら、今夜は、ここにいて。絶対よ」
「……わかりました」

レインは、ちょっとだけ困ったように笑って、ベッドに腰掛けた。

「あなたに怒られるのは嫌なので、ボクは朝までここでこうしています。……仕方ないなぁ……」

むちゃくちゃなことを言っているとわかっていた。
けれど、どうしても譲れなかった。
だから、レインの手を握った。
ひんやり冷たい、人形のようなレインの手。
綺麗だけれど、酷く悲しい手。

鷹斗を救えるのは、私だけだと、レインは言った。

ならば、レインを救えるのは、誰?

……できることなら、私であってほしい。
そして、もしも私でないのなら、誰か早くこの人を救ってあげて欲しいと思う。
この壊れた世界を望み続けるこの人を、誰か、救ってあげて欲しいと、思う。

今の私に出来るのは、この人をここにつなぎとめるところまで。
だから、レインの手の温度を感じたまま、目を閉じる。
レインはもう、何も言わなかった。

深夜の静寂の中、私はレインの手をきつく握ったまま、ゆっくりと眠りの底へ落ちていった。


Fin.
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* * *

ひんやりと、冷たい感触。
……気持ちがいい。
ぼんやりと目を開けると、見知った顔が目に入った。

「ああ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか。」
「……レイン……?」
「はい。こんばんは。」

どうしてこんな時間にこんなところにいるのかとか。
不法侵入だとか。
言いたいことは色々あった。
色々あるはずだった。
けれど、私の口から零れ出たのは全然違う言葉。

「髪……長いのね」
「ああ、これですか?もう随分伸ばしちゃってますからねー」

目の前に居るレインは、いつも結っている髪を下ろしていた。
レインの細い指が揺らす、淡い金色と、柔らかなピンク。
綺麗だと思った。

「結構大変なんですよー、あの髪型結うの」

ふんわり、レインが笑った。
どうしてだろう。
今日のレインは別人のように見える。
髪を下ろしているから?
違う、それだけじゃない。
纏う雰囲気が、まるで違う人。

「……レイン」
「はい」
「どうして、ここに来たの?」
「そうですね……、あなたを、攫ってしまおうかと思いまして」

レインの手が、また頬に触れた。
冷たい指先。
まるで人形のような。

「鷹斗が、……怒るわ」
「はい。そうでしょうね」
「……それでも、私を攫うの?」
「はい、そのつもりでした」

レインが何を考えているか、わからない。
元々何を考えているかなんてわからない人だけど。それでも。

「あなたが寝ている間にね。あなたを攫ってしまおうと思っていたんです。……でも、あなたが起きてしまったので、計画は中止です」

あなたにもばれてしまっては意味がないですから、とレインが続けた。
優しい、けれど、どこか寂しい笑顔。

「レイン」
「なんです?」
「私を攫って、どうするつもりだったの」
「……そうですねー。……あなたには、自由になってほしかったですね」
「え?」

意外な台詞。
自由。
この場でこんなことを言われるなんて、思わなかった。
少しも。

「ねえ、撫子君」
「何……?」
「鷹斗君を救えるのは、あなただけです。……この状況は決してあなたが悪いわけではないけれど、このずれた歯車を元に戻すことができるのは、間違いなく、あなただけです」
「……」
「でもね。……だからこそ、あなたをここから、連れ去ってしまいたかった」

この壊れた世界をいつまでも、壊しておくために。
かみ締めるように続けられたその言葉が、痛い、そして、怖い。
レインは、この壊れた世界に、一体何を求めているのだろう。
私にはそれが、わからないままだった。

「あなたなら、必ず鷹斗君を救ってくれる。ボクはずっと、それを……、信じているんですよ」
「……」
「……それでは、おやすみなさい、撫子くん」

もう一度私の髪をなでると、レインが踵を返した。
行ってしまう。
そう思った瞬間、どうしてだろう、私は反射的に、レインの服を握り締めていた。

「撫子君?」
「……」
「どうしたんですか」
「……」
「撫子君?」
「……どこへも、行ったら駄目よ」

どうしてそんな言葉が出てきたのかわからない。
けれど、今手を離したら、この人はどこかに行ってしまう。
それは確信だった。
私が今何もせず、この手を放してしまったら。
きっと、レインは消えてしまう。

「どこか、って……。行くところなんて、どこにもないですよ?」
「それでもよ。……だから、今夜はこの部屋から出ないで。……私の傍に居て」
「!……撫子君、そういう台詞を言う相手はきちんと考えたほうがいいと思いますけど」
「いいの。……いいから、朝まで、あなたはここに居て。絶対に、ここに居て。……私が起きたときあなたが居なかったら、私、本気で怒るわ」
「……撫子君に怒られるのは、ちょっと、……いえ、かなり嫌ですね」
「それなら、今夜は、ここにいて。絶対よ」
「……わかりました」

レインは、ちょっとだけ困ったように笑って、ベッドに腰掛けた。

「あなたに怒られるのは嫌なので、ボクは朝までここでこうしています。……仕方ないなぁ……」

むちゃくちゃなことを言っているとわかっていた。
けれど、どうしても譲れなかった。
だから、レインの手を握った。
ひんやり冷たい、人形のようなレインの手。
綺麗だけれど、酷く悲しい手。

鷹斗を救えるのは、私だけだと、レインは言った。

ならば、レインを救えるのは、誰?

……できることなら、私であってほしい。
そして、もしも私でないのなら、誰か早くこの人を救ってあげて欲しいと思う。
この壊れた世界を望み続けるこの人を、誰か、救ってあげて欲しいと、思う。

今の私に出来るのは、この人をここにつなぎとめるところまで。
だから、レインの手の温度を感じたまま、目を閉じる。
レインはもう、何も言わなかった。

深夜の静寂の中、私はレインの手をきつく握ったまま、ゆっくりと眠りの底へ落ちていった。


Fin.
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